Rental Honeymoon 3


「ま、こんなもんだろ。」

カチャと刀を鞘に収めると、首をゴキゴキとならす。

夕食時に屋根から侵入を試みた賊は、
建物に入ることなく逃げ去っていった。

武器を取り上げられた三人の男は 方々に逃げ帰った。

「いいんですか?帰しちゃって。」

「あ、別にかまわねぇだろ。もう一度襲ってくる勇気があるとは思えねぇがな。」

「それに、ここに一週間留め置いたって、じゃまなだけだ。」

「執事さんに連絡して、引き取りに来てもらったら、いいです。」

ゾロがあごで電話と指し示す。
「どうせ、つながんねぇぜ。」

受話器を取っても、なんの音も聞こえてこない。
「あ、ほんとだ。」

「外に助けは求められないってことだ。逃げ出すなら今だぜ。」

むっとしてたしぎは答える。

「誰が逃げ出しますか!目の前に、絶好の相手がいるっていうのに。」

はんっ。馬鹿にするように笑うとぐっとたしぎに近づく。

「外に連絡できねぇってことは、ここで何があってもわかんねぇってことだぜ。」

ゾロに気圧されて、後ずさる。
背中が壁に触れる。

左手をたしぎの顔のすぐ側の壁につくと、耳元で囁く。
ゾロの吐息が肌で感じられるほど、近い。

「新婚旅行ってんだから、仲睦まじく、初夜でも過ごすか?」


「なっ!?」
横を向いたら、唇がロロノアの頬に触れてしまいそうで動けない。


畳み掛けるように、ゾロの声が響く。

「一週間もあるんだぜ、一発ぐらいヤラせろよ。」


たしぎは、前を見つめたまま、なにも言えなくなってしまった。
心臓が口から飛び出そうにな程、激しく脈打っている。


「・・・・」


ふいに、緑色の上着に遮られた視界が広がる。

「・・・冗談だよ。」

ゾロは、キッチンに戻ると、皿を片づけ始める。

たしぎは、壁にもたれたまま、暫くその音を聞いていた。



壁にもたれながら、
浮かれていた自分が、少し傷ついたことに気づいた。



******


柄にもなく、自分から皿を洗い始めた。
なにか動いてないと、また酷いことを言い出してしまいそうだった。


てっきり、いつものように怒られると思った。

あいつは、此処に来るのがオレじゃなかったら
どうするつもりだったんだろう。
オレが来ることは、知らなかった様だ。

いくら、任務だからって、見知らぬ男と二人きりで
一週間も過ごすつもりだったのか。

あまりの無防備さに、苛立ったことは確かだ。

オレの知ったこっちゃねぇけどな。


*******


片付けが終わり、居間に戻ると、もう夜中だった。

時雨を片手に窓際から外の様子を探っているたしぎに
声を掛ける。

「もう、寝ろ。夜はオレが起きてる。」

振り返り、ゾロを見つめる瞳には、冷静さが戻っていた。

二人の胸に微かな痛みが走る。

「でも・・・」
視線を落とす。

「なんで、オレが昼間寝てたと思ってんだ。」

「・・・わかりました。昼と夜、交代で見張るということですね。」

  ふん、とゾロが頷く。

ま、寝ててもやられる気はしねぇけどな。


「じゃあ・・・」

たしぎが、寝室へと向かう。

ゾロは居間の明かりを絞ると、ソファに身体を投げ出した。


*****


枕元に時雨を置くと、着替えもせずにベッドに 身体を横たえる。


昼間、ロロノアが寝てたベッド。
微かな残り香が、胸を苦しくする。

「・・・・眠れないよ・・・」

たしぎは、小さく呟いた。



〈続〉